2006年06月 9日
チケット問題の真相・・・巨大ビジネスW杯に群がる闇社会

ドイツ、マルタとの調整試合も終わって、日本代表はいよいよ初戦のオーストラリア戦に臨む。開幕直前のムードも高まっているが、5月31日には旅行会社「マックスエアサービス」(以下MAS)の観戦ツアーがチケットを用意できずキャンセルされたことが報道され、6月5日にはついに「返金のめどは立っていない」と指田清一社長が記者会見で明らかにした。
MASのケースは問題が複合的になっている。まず、MASが中国の政府系企業「中国国際体育旅游公司」(http://www.chinacist.com/)にチケットを手配したことが問題だ。中国企業と仕事をするカントリーリスクが考慮された形跡は見られない。
6月1日に同公社は「4月上旬にMASと価格交渉が折り合わなかったので、4月18日に支払われていた金を返却する手続きをした」と記者会見で答えたが、質問は受け付けなかった。質問を受け付けない方式が中国の常識であるのだが、世界では非常識であるのは言うまでもない。その種の会見(と呼ぶに値しないが)で真実が明らかにされるはずなどない。さらに6月2日には、中国の環球時報が「ビジネス上のトラブルに過ぎない。日本のメディアが騒ぎすぎだ」とする論説を掲載し、被害者である日本サイドを非難した。
もちろん、このツアーが中国の政府系企業からチケットを入手するというだけで、胡散(うさん)臭さを感じて申し込まなかった人もいるに違いない。そういう消費者は被害を免れているのだ。そういう人たちは、情報を多角的に入手し既存メディアだけを信じない、デジタル・ディバイド(※1)の上位の人たちではないだろうか。
だが、被害者の人たちを自己責任と突き放せないのは、中国でのアジア杯での反日デモや、瀋陽の日本総領事館での事件など、中国の負の情報に対して及び腰とも言える日本メディアにも責任があるように思う。一部既成メディアの偏向した中国情報と、インターネットで得られる情報の格差はもっと論じられるべきである。
MASはW杯ツアーの経験もあり、フランス大会でもチケットを用意できたという実績がある。だが、フランス大会の混乱からFIFAが日韓大会から旅行会社へのチケット発売を止めたため、スポーツマフィアや闇社会がつけ込む隙(すき)がかえって広がったのだ。
実は日韓大会の決勝戦でMASは韓国が製造した贋(ニセ)チケットを掴(つか)まされた“前科” があるのに、当時、韓国製造の贋チケットの話題がどれだけ報道されただろうか? 日韓共催の美名の下に、多くの負の韓国情報が隠蔽されたと指摘する声は少なくないが、そのツケが4年後に出た側面もあるのではないだろうか。
MASのおかしい点は、5月26日時点で、同日までに代金を振り込むようにという通知がツアー参加希望者に一斉に出されていることだ。そして、5月30日のツアーキャンセルの発表である。6月1日に「2日午前、約500人分のチケットを入手できる可能性がある」と発表し、2日には「148枚を確保できたので差額を支払えば発売できる」と内容が変わり、5日の返済不可能発表となった。6月5日以来、電話は繋がらず、MASのサイト(http://maxairjp.com/)からは次々と情報が削除され、会社概要まで消えてしまった。6月4日には被害者のブログも設置されることになったが、MASと中国国際体育旅游公司の両方を追及する必要がある。
また、MASは北朝鮮ツアーを開催していることにも触れておかなければならない。つまり、北朝鮮や中国と特別なパイプのある特殊な旅行社であるということだ。北朝鮮ツアーそのものを悪いとは言わない。日本人の間でも需要はあるだろうし、その手続きを代行するのは旅行会社の業務の1つであるのは言うまでもない。だが、同社の北朝鮮という国に関するホームページ上の記述はこうだ。
「この偉大な変革は、たぐいまれな指導者金日成主席と金正日書記のもと、チュチェ思想に導かれた人民大衆の鉄の団結と、限りなき人民愛を基調とした革命的ロマンがあってはじめてなしえたものである。指導者と党、そして人民大衆が一致団結した社会主義は不滅であり、この不滅の社会主義祖国に朝鮮人民は、大いなる希望と幸福な未来を託している。」
国際社会から核や人権問題で非難を受け、拉致問題で日本中から批判を受けている北朝鮮という国家とその指導者に対する、無条件のこの賛辞に違和感を覚える方は多いのではないだろうか。中国のカントリーリスクが考慮された気配がない面と合わせて、本来、地域や社会に貢献すべき企業としては、バランス感覚の危うさを感じるのは筆者だけではないだろう。
6月7日には、もっと悪質な「ワールドカップツアーズ」という幽霊会社の事件が報道されたが、これもネット上で大問題となっていた。サイトには東京都中央区の住所が記されているが、この住所に該当する会社は存在しない。電話も繋がらず、「都によるとツアー代金を振り込んだなどの相談が数件寄せられている」と日刊スポーツが報じた。しかもこのサイトのドメイン(※2)が取得されたのは、なんと今年の5月18日なのだ。
フランスからもフランス戦3試合のチケット計500枚以上が紛失したというニュースがAP電で飛び込んできた。フランス・サッカー連盟からアルザス地方の地域リーグに宅配便で送られる途中で行方不明になっているという。
8年前のフランス大会のチケット難民の姿が思い出されるが、異常事態が4年毎に繰り返されているということだ。需要が供給を大幅に上回る商品だけに、消費者は冷静かつ慎重にツアーを選択する以外、現時点でこれといった対策がないのは何ともやるせない事実である。
※1デジタルディバイド
元々は、コンピュータなど電子機器で情報を得られる人と、テレビ、新聞など一般メディアでしか情報を得られない人との格差を表す言葉。それが転じて、電子機器と一般メディアの情報格差を指すようになった。
※2ドメイン
インターネット上のサイト(ホームページ)の住所を表す記号
写真は、マックスエアサービスが「応援ツアー」申込者に送付した書類
- 西村幸祐(にしむら・こうゆう)
- 1952年(昭和27年)東京生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科中退。在学中に第6次『三田文学』の編集を担当、80年代後半から主にスポーツをテーマに作家、ジャーナリストとしての活動を開始した。93年のW杯予選からサッカーの取材も開始。02年W杯日韓大会取材後は、拉致問題、歴史問題などスポーツ以外の分野にも活動を広げている。著書は「ホンダ・イン・ザ・レース」(93年・講談社)、「八咫烏(ヤタガラス)の軌跡」(02年・出版芸術社)など多数。新著は「反日の超克」(PHP研究所)。
ホームページアドレスはhttp://nishimura.trycomp.net


