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西村幸祐コラム

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2006年07月 7日

サッカーから見える韓国(2)…北朝鮮ミサイルとオフサイド問題その後

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 W杯もいよいよクライマックスを迎える。決勝トーナメントに入ってからの試合は、どの試合もまるでパズルか詰め将棋のようだ。針の穴を通すような精緻な組み立てで試合が構成され、1つのトラップミス、30センチのパスミスが命取りになる。まさに、そんな試合だった準決勝のドイツ対イタリア戦の最中に、北朝鮮のミサイル乱射の速報が飛び込んできた。

 驚かなかったと言えば嘘になるが「意図が分からない」とか「対話の余地を残す必要がある」(小泉首相)とか、笑いながら「怖いですねぇ」などと街頭インタビューに答える人がいたり、全(すべ)てが何か現実から遊離した、造花のお花畑を見せられたような気がしている。北朝鮮が何をやって来て、何をやっているのか(※1)正確に把握していない人にとっては、大変な驚きだったのだろう。実はそれは、韓国が何をやって来て、何をやっているのかを正しく見ている人が、韓国を客観的に認識できるのと同じことだ。前回のコラムで紹介したスイス-韓国のオフサイド判定問題(※2)は非常に分かりやすい例だった。

 ところで、その後、彼らの言う“誤審”問題は韓国社会にとってますます重要なものに発展していた。本当なら韓国社会の根幹を揺るがす大問題なのだが、果たして当の韓国人の内どれだけの人がそれに気づいているのだろうか?
 なぜ、大問題になったかと言えば、1人の韓国人解説者が登場したからなのだ。もし、彼が登場しなかったら、あの“韓国流誤審”騒ぎは、毎度繰り返される韓国のスパムメールとDOS攻撃事件(※2)で終わっていたはずだ。

 7月1日、韓国の「スポーツ朝鮮」に「行き過ぎた愛国心で誤った解説してはダメ」 という韓国のサッカー解説者、辛文善(シン・ムンソン)氏のインタビューが掲載された。辛文善氏は6月24日のスイス-韓国戦でSBSの解説を務めていたが、例の<オフサイド>のシーンをリプレーで確認し、はっきりと「オフサイドではない」と解説し、「主審は副審のオフサイドという判断を訂正できる最終権限を持っている」と話したのだ。辛文善氏が韓国のネット上で猛烈な批判と中傷に曝(さら)されたことは前回触れたが、驚いたことに「売国奴」とか「愛国心に背く」という批判が殺到したSBSが、辛文善氏をW杯中継の番組から降ろしてしまったのだ。

 「スポーツ朝鮮」のインタビューで辛文善氏はこう語っている。
 「20年以上、サッカー解説者として活動してきた。解説者は正確な解説で視聴者の理解を助ける人だ。その過程において、度を越えた愛国心のため、誤った解説をしてはならない」。「大韓サッカー協会は国民に真実を伝えるべきだ。FIFAらがオフサイドではないと判断しているのにもかかわらず、沈黙している。国民が勘違いしたままにしておくことが、韓国サッカーにとって何の役に立つというのか」。

 辛文善氏は、スポーツを、サッカーを、そして韓国を愛するからこそ、自分への批判が許せなかったはずだ。だが、問題はこれに留まらなかった。全く正当なことを述べているのに(いるからこそ?)非難が殺到する韓国社会の状況は、さらに辛文善氏を追い込んだ。7月4日には有力紙「朝鮮日報」が辛文善氏が韓国メディアと鄭夢準(チョン・モンジュン)大韓蹴球協会会長を批判するハンギョレ新聞電子版の記事を紹介した。以下が辛文善氏のコメント部分だ。

 「SBSから『オフサイドの解説に対する国民の反感が高まっているので、すぐ帰国するように』という電話があった」
 「混乱している。問題の試合の模様を再度見たが、あれはオフサイドではない。サッカーは国民感情とは違ったルールで行われるスポーツだ」
 「テレビ局とは一切連絡をしていない。わたしが正しい解説をしているのにテレビ局が国民に反感を植え付けようとするのは間違っている。テレビ局の誤った決定だ」
 「(問題の試合の模様を)再度見たが、あれはオフサイドではない。解説者は試合のルールや状況を明確に分析するのが仕事だ。サッカーはルールによって行われるスポーツだ。それなのに国民はルールや国際サッカー連盟(FIFA)を無視している。自分勝手に解釈して結果が悪ければ叩(たた)くというのは間違っている」

 さらに辛文善氏は「国民が理性を失った反応を見せているときには、鄭夢準大韓サッカー連盟会長や審判委員会がそれをいさめなければならないところを、皆そろって国民に同調した。それどころか鄭会長は『FIFAに提訴する』と言って、国民感情を煽(あお)っている。マスコミも国民を煽る記事を書いているのを見て、大変失望した」と痛烈に韓国社会を批判したのだ。

 彼のような真の愛国者がいれば、韓国のスポーツ文化も健全さを保てるのではないかと思う日本人もいるはずだが、実際にはそうは行かないのが韓国のこれまでの常だった。4年前のW杯日韓大会後に日本で出版された「親日派のための弁明」が、韓国で発禁に近い処分を受け、著者の金完■(キム・ワンソプ)氏が生命をも脅かされる韓国の言論状況と全く同じ構造なのだ。4年前の9月に私は金完■氏と会見したが、彼ほどの愛国者が<売国奴>と呼ばれている状況に驚かされた。今回も<歴史認識>が<サッカーのルール>に置き換わっただけなのだ。

 2年前に<従軍慰安婦>を虚構と指摘し「従軍慰安婦は売春業」と発言したソウル大学の李栄薫(イ・ヨンフン)教授が、韓国中から非難を浴び、元慰安婦たちの前で土下座をさせられた事件を髣髴(ほうふつ)させる。こういった韓国の風潮を最も象徴的に示すのが「竹島」に関する問題だが、北朝鮮がミサイル7連発を行った日、韓国の海洋調査船が竹島を含む日本のEEZ内で事前通告なしで侵入していたことも合わせて指摘しておく。

 スイス戦の判定をめぐって韓国内で論争が白熱する中もW杯の熱戦は続いている。決勝戦の主審に、スイス-韓国戦を裁いたオラシオ・エリソンド氏(アルゼンチン)の起用が決定した。このことは彼こそが今大会、最も優れた主審の1人であったことをFIFAが認めていることに他ならない。この事実を韓国の国民は重く受け止めるべきだろう。

※■は又の上に左から火言火。

【筆者より】
 前回のコラムに対し、多くの方から激励のメールをいただき感謝しています。また、韓国のスポーツメディアサイトに拙コラムが紹介されるという栄誉に浴しました。辛文善氏と日韓のメディア状況についてお話しをしたいので、今回も韓国メディアに紹介されることがあれば、ご連絡をいただければ幸いです。

 ※1 北朝鮮が何をやって来て、何をやっているのか・・・政府認定の拉致被害者は16名だが、特定失踪者問題調査会は拉致の確率が高い人34名と、拉致の可能性のある人224名をリストアップしている。また、筆者は1000人以上という情報を中国軍事筋から得ている。

 ※2 オフサイド判定問題…1次リーグG組のスイス-韓国戦の後半32分、ゴール前の混戦でスイス選手の横パスが、MF李浩が出した足に当って韓国GK李雲在へのバックパスの形になった。これをオフサイドポジションにいたスイスFWフレイに拾われ、GK李がかわされてゴールを割られた。この時、副審はスイス選手から出たパスと見てオフサイドの旗を上げたために韓国選手はフレイを追うのをやめており、ゴール後に主審に猛然と抗議したが、判定は覆らなかった

 ※3 スパムメールとDOS攻撃事件・・・嫌がらせを含む抗議メールなどと、WEBサイトに過剰なアクセスをすることで閲覧を不可能にするサーバー攻撃。FIFAは6月25日に韓国からのアクセスを遮断する処置を執った。

※写真はスイス戦で黒星を喫し、韓国の敗退に頭を抱えるサポーター(ロイター)

西村幸祐(にしむら・こうゆう)
 1952年(昭和27年)東京生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科中退。在学中に第6次『三田文学』の編集を担当、80年代後半から主にスポーツをテーマに作家、ジャーナリストとしての活動を開始した。93年のW杯予選からサッカーの取材も開始。02年W杯日韓大会取材後は、拉致問題、歴史問題などスポーツ以外の分野にも活動を広げている。著書は「ホンダ・イン・ザ・レース」(93年・講談社)、「八咫烏(ヤタガラス)の軌跡」(02年・出版芸術社)など多数。新著は「反日の超克」(PHP研究所)。
 ホームページアドレスはhttp://nishimura.trycomp.net

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