中田引退、29歳で現役に幕

- 6月12日オーストラリア戦、逆転を許しセンターサークルへ向かう中田英
W杯日本代表MF中田英寿(29)が、栄光と孤高のサッカー人生に終止符を打った。3日、自らの公式ホームページ(HP)で現役引退の声明を発表した。ドイツW杯では孤軍奮闘したが、無念の1次リーグ敗退。6月22日(日本時間同23日)のブラジル戦後に初めて涙した姿が、燃え尽きたことを物語っていた。3度のW杯、8シーズンに渡る欧州リーグでの挑戦。常に日本サッカー界の先駆者として疾走してきた男が、現役生活に幕を下ろした。
あの涙は、ただの悔し涙ではなかった。惨敗のブラジル戦後にピッチ中央で大の字になり、サッカー人生で初めて、人前で流した。プロ入り時「サッカーしか知らない人間にはなりたくない」と関係者に話し「サッカーは仕事」と公言してきた男が、サッカーを愛していたことを知った涙。半年前から秘めていた決意に対する証しの涙だった。
あれから10日。これまで数々の思いをつづってきた公式HPに、現役引退の意向をしるした。「彼は『自分はある精神的境地になったらキッパリとやめる』そんな意味のことを常々、言っていました」(所属事務所サニーサイドアップの次原悦子社長)。一片の未練も残さず、サッカー界から潔く去ることを決断した。
「W杯1回目はどういうものか分からず、2回目はホームだったので、3回目の今回は本当に戦っている気がした」というW杯ドイツ大会。8歳の時からサッカーを始め、29歳のプロサッカー選手として成熟するまで、積み上げてきた力のすべてを注ぎ込んだ。
常に厳しい言葉をチーム内に投げかけ、仲間との距離に一線を引いてきた男が、食事会を主催し自ら輪の中に加わろうとすることもあった。「時には励まし、時には怒鳴り、時には相手を怒らせてしまったこともあった。だがメンバーには最後まで上手に伝えることは出来なかった」。最後まで葛藤(かっとう)があった。
クロアチア戦は終了と同時にピッチに倒れた。小学校時代は自分の蹴ったゴールキックを追いかけ、相手ゴール前でシュートを放ったこともある。舞台の差は無論あるが、底知れぬ体力を誇る男が息を切らしながら会見で言葉を並べた。ブラジル戦前には公式HPで関係者、ファンのために全力を尽くして戦うことを誓い「この試合が最後にならないことを信じ続けて…」と引退をにおわせた。3度目のW杯を集大成とする覚悟は見せていた。
選手としての全盛期を過ぎたことも確かだった。04年に発症したグロインペイン症候群(骨盤、股関節周囲の過負荷による痛み)は致命傷となった。フィオレンティーナでは完全に出場機会を失い、新天地のボルトンでも苦しんだ。持ち前のフィジカルの強さもプレミアリーグでは通用せず、プロ入り初退場も喫した。終えんを感じていたからこそ、最後の区切りとなるW杯で異常なほどの執念を見せた。
誰も歩んでこなかった道を、1人、これまで切り開いてきた。「プロサッカーという旅から卒業し“新たな自分”探しの旅に出たい」。今大会の惨敗で大きな転換期を迎える日本サッカー界。その象徴のように「サッカー選手・中田英寿」も、一人旅に終わりを告げた。
[2006年7月4日9時27分 紙面から]
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