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W杯ヒストリー

−第15回米国大会−

マラドーナ最終話「悲劇のヒーロー」 

 アルゼンチン代表MFマラドーナの演技力は、俳優にも負けないものだった。

 94年米国大会。4度目となるW杯で33歳の天才は、最後まで主役を張るつもりだった。1次リーグ初戦ギリシャ戦では得意の左足でW杯通算8ゴール目をマークし4-0の勝利に貢献。続くナイジェリア戦も全2得点に絡み、逆転勝ちを演出した。コカイン使用による出場停止、所属クラブからの解雇、報道陣への銃撃、そして限界説…。「お騒がせ男」はすべてを乗り越えたかに見えた。しかし、ナイジェリア戦から4日がたった6月29日、エフェドリンなど禁止薬物使用が発覚。翌日にはFIFAから大会中の出場停止という暫定処分が下り、マラドーナのW杯人生は終わった。

 その6月30日。ダラスは暑かった。報道陣、一般客の混乱を避けるように、ブルガリア戦へ向かうチームバスはホテル裏の生ごみ搬送口につけられた。鼻をつまむほどの異臭が漂う中、主役が乗らないバスが試合会場へ向かった。0-2で敗戦。その一方、試合終了後1時間足らず、主役はホテルロビーに姿を見せた。

 約9時間前のFIFA会見。ブラッター事務局長(当時)から「これはドーピング違反という問題だけでなく、人間性の問題だ」と意図的な薬物使用と厳しく非難された。それでも、マラドーナは「単なる薬と思って飲んだ。(ドーピング)テストで陽性になるとは思わなかった」と涙を流しながら潔白であると繰り返した。悲劇のヒーローを演じたままマラドーナはW杯を追放され、好調だったチームも決勝トーナメント1回戦で姿を消した。【94年大会取材・岡本学】


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